From Trace to Image表面には、作り手が素材へと触れた確かな痕跡が留まります。
それは土を捏ね、木を削り、漆を塗る過程で刻まれた、「途中の時間」そのものです。それぞれの痕跡は、作品ごとに豊かなグラデーションを描きます。
削り出された素材の肌ざわりがそのまま立ち現れるもの。
素地の上に軽やかな一本の線が引き直されるもの。
刻み込まれた無数の跡が、幾何学的な文様へと変容するもの。
あるいは、素材の気配を背景に、大胆な色面や絵柄が浮かび上がるもの。
土や木そのものの手触り、色や形、そしてひとつの「像」へ、素材と手が紡ぎ出す、ひとつづきの道筋を辿ります。
沈黙の地層絵肌は、時間そのものの厚みを纏います。
深い藍の闇が静かに揺らぎながら凝縮する夜の気配、上下を分かつ水平な直線と風化したコンクリートのような質感が刻む沈黙、淡い紫と緑ののあいだで息をひそめる気配、橙から紫へと移ろい、そして、雲から覗く明るい青がどこまでも柔らかく広がっていく静けさ。
出来事そのものではなく、出来事が過ぎ去ったあとに積もる時間の質感が、そこにはあります。滲み、溶け、斑になり、沈んでいく色、それぞれの作品が沈黙を抱いています。しばらく目を留めることで、はじめて私たちはその地層に触れることができるのかもしれません。
凪 - 境界に留まる時間今回の「Curator’s Pick」は、三重県松阪市を拠点に、若手日本画家を紹介するギャラリーMOSとのコラボレーションです。静かな風景を描く甲村有未菜の作品をご紹介します。
今回のテーマは、"凪 - 境界に留まる時間"です。
それぞれの作品に境界線が描かれています。空と地、海と船、形は違いますが、その線を挟んで質感がゆっくりと変わっていきます。
暗く沈んだ面の中に、白い線だけが浮かび上がり、茶色い地に色の滲みが広がっています。空と海の境はにじみ、輪郭を持たず、一隻の船は、線の上に静かに浮かんでいます。
その質感の一つひとつが、風景の静けさを立ち上がらせています。くっきりとした境ではなく、緩やかに変わっていく面。
その変化が、風景に独特な存在感を与えています。